白砂 鏑木蓮 (本)

「白砂」

なんて綺麗なタイトルだろうと思いました。表紙も夜の水辺に白い鹿が描かれているもので、無垢さや瑞々しさが伝わってきます。

これは作中にある、少女の母親がある夏の日に奇跡的に見た光景であり、もしかしたら少女が胸を焦がし思い描いた景色なのかもしれません。

 

そもそも白砂とは、骨です。人骨です。

(白砂が付く山や川があるようですが、作中とかかわりのない場所にあるので関係ないと思われます)

骨によって殺人が起こり、骨により犯人が割り出されていくという・・・骨がキーワードとなっているミステリーです。その中には被害者、犯人の二人の生き様や思いが詰められており、ミステリー特有の緊迫感はないものの、少し胸が締め付けられるような物語でした。

 

なんとも悲しい話ではありましたが、残念ながら宣伝文句にある「涙腺崩壊必至の感動作」にように、私の涙腺はぴくりともしませんでした。

ただ少女がもし殺されず、今も生きていたならどんな世界があったのだろうと、考えてします今日この頃です。

メイドインアビス (映画)

今週のお題「最近見た映画」

メイドインアビス前編後編?

プライムビデオにて無料で見れたため一気に見てしまいました。

昔ほどアニメに馴染めず、あまり期待せず見ていたのですが、見れば見るほどメイドインアビスの世界に引き込まれていきました。

そもそもこの世界観、簡単に言うと数千年前に発見された大穴の深層へ少年少女が目指す話であるのだが・・・

主人公のリコとレグはまだ12歳の風貌で(レグはロボットため12歳ではないのです・・・)能力的にも無謀な旅なのですが、ハラハラドキドキさせられつつ、純粋さやまわりのちょっと屈折した優しさに、ほろっときたり。。

見どころはナナチ!見た目も可愛く、私も触ってもふもふしたい!!!という衝動に駆られます。またミーティとのやり取り・・・涙なしには見られない。

正直ナナチとミーティの話はよくあるお涙ちょうだいなシーンではあると思ったのですが、号泣しました。

2020年1月頃に公開されている続編があるので、この先リコ、レグ、ナナチの旅がどのような結末を迎えるのか、是非見たいところです。

授賞式に間に合えば 赤川次郎

文学賞を受賞した竜ヶ崎肇が授賞式当日向かおうとするのだが・・・・

脅迫して呼び出してきた女性がホテルで死んでいたり、盗まれた車が事故に合ったり、指名手配犯に脅されたりとなかなか辿り着かない。

授賞式に無事間に合うのか!?

 

赤川次郎さんの軽快な文章は、親しみやすく、読む速度が遅い私でもすぐに読み終わってしまう。

また、ミステリーやサスペンスは暗く陰鬱としているものが多くあるが(最近読んだものがそうでした・・・)、コミカルで、登場人物のボケや非現実的な描写で読者が心の中で突っ込みを入れたくなる、なんだか心を軽くしてくれる本でした。

ちょっとした合間などに手軽に読める、おすすめの一冊。

「ルージュ 硝子の太陽」 誉田哲也

ストロベリーナイトをはじめとする、姫川玲子シリーズの一つである。

前作を読んだことがある方はお馴染みであろうが、読んだことがない私でも登場人物の関係性や周りの空気などが容易に想像出来、楽しめた。

物語の中心は世田谷区祖師谷で起きた母子三人惨殺事件であり、この事件を捜査していくうちに浮上する28年前に起こった未解決の一家殺人事件がカギとなっていく。

どちらの事件も凄惨で、想像するたびに吐き気を覚え、読み進めるのがつらくなるのだが、それ以上に続きが気になってしまうストーリーと軽快なテンポで、ページを捲る手を止められなかった。

また様々な視点で描かれており、物語が進みうちに全貌が露わになっていき、ばらばらだった点と点が最終的に一つの線になっていくという醍醐味が味わえる。

残念ながら、今作では明かされなかった事件があり、こちらは別視点で作られた別作品で読むことが出来るらしい。機会があれば読むのも良いだろう。

私が今作を読み進めていくうちに特に注目したことは、実際におきた昭和の事件や現代の社会で今もなお問題となっている事柄が描写されていることである。戦争を体験した一人の外国人による見解や他の描写から、今の日本のあり方に問題提起し、一人一人考えてほしいという、作者の思惑があるのではないだろうか。

米軍基地、尖閣諸島問題など、アメリカや中国から搾取されている、またされつつある日本であるが、今後日本の安寧を願うなら、自分たちで守れる国を作らなくてはいけない・・・なんていうメッセージがあると浅い知識の私は思うのである。

 

 

 

空中ブランコ

奥田英朗さん作「空中ブランコ

伊良部一郎という精神科医と患者の織り成す短編集。

直木賞を受賞しており、流石というか、読者を飽きさせない内容であり、伊良部氏が何を仕出かすか、物語がどのように終着するのか、続きが気になってしまう作品である。

この作品の患者たちは、それぞれの職種の花形という地位にいたにもかかわらず、初めての挫折、そこから生まれる葛藤により精神的・身体的に苦痛を感じたことで、伊良部氏のところに訪れるわけだが、本当に医者なのかと疑うほど伊良部氏の対応は子供のような、とんでもない立ち振る舞いで、患者も読者である私も動揺してしまうほどである。

しかし、彼の恐れを知らない行動には羨望をも感じ、純粋な問いかけにハッとさせられることが多々あった。やってはいけないこと、当たり前、そんな風に決めつけてしまう大人のがちがちに固まった頭ではない、子供のような精神だからこそ、患者に新しい考え方や気付かなかったことを教えられたのではないだろうか。

勿論伊良部氏が意図せずしたことではなく、彼の行動がひとつのきっかけに過ぎない。一番は患者らの家族や友人等の温かい思い、そして尊さに気付けたことが、病気を治せた理由なのだと思う。

一読者として、またお暇中の身として、新しい一歩を踏み出す勇気をほんの少し与えてくれる、素敵な一冊であると感じた。